海外派遣の特別加入の要否をめぐる裁判例

こんにちは、千葉県千葉市のMORI社労士・行政書士事務所です。

今回は、労災保険の海外派遣者の特別加入制度に関する裁判例をご紹介します。

労災保険は、本来、国内にある事業場に適用され、そこで就労する労働者が給付の対象となる制度です から、海外の事業場で就労する方は対象となりません。

しかし、外国の制度の適用範囲や給付内容が必ずしも十分でない場合もあることから、海外派遣者についても労災保険の給付が受けられる制度を設け ています。これを「海外派遣者の特別加入制度」といいます。

ただし、「労働者が国内の事業に属し、その事業に従事するための労働提供の場が単に海外にあるにすぎない海外出張者は特別加入の手続を経ることなく保険関係の成立が認められる」(後掲裁判例)とされており、どこまでが「出張」でどこからが「海外派遣者」に当たるのか、判断に迷う場合も少なくありません。

この点について、近時参考になる裁判例(H27.8.28東京地判「中央労働基準監督署長事件」労経速 2265-3)がありましたので、今回はこの事件について取り上げたいと思います。

この事件は、海外で死亡した労働者(A’)の遺族が労災保険の給付請求をしたところ、労基署がこれを出張業務中の災害とは認めず、海外派遣者として特別加入の承認も受けていなかったことを理由に不支給 決定としたため、遺族が決定の取消を求めて提起されたものです。そして、結論を先取りすると、遺族 の請求は認められませんでした(不支給決定が認容された)。

まず、行政通達(S52.3.30基発192の25)では、「海外出張者として保護を与えられるのか、海外派遣 者として特別加入しなければ保護が与えられないのかは、…国内の事業場に所属し、当該事業場の使用者の指揮に従って勤務するのか、海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務すこ とになるのかという点からその勤務の実態を総合的に勘案して判断されるべきもの」とされています。

このように「勤務の実態を総合的に勘案して判断される」ため、「出張」なのか「海外派遣者」なのか(特別加入が必要なのか)の判断が難しくなるケースがあるわけです。

本判決でも、おおむねこの通達を踏襲して、「当該労働者の従事する労働の内容やこれについての指揮命令関係等当該労働者の国外での勤務実態を踏まえ、いかなる労働関係にあるかによって総合的に判断するべきである」とし、①A’勤務していた上海にある会社(乙社・丙社)の性格、活動、②A’の勤務実態等が検討されました。

そして、結論において、A’は国内の事業に属しているとはいえず、乙社・丙社に属し、その業務に従事していたことが認定されました。つまり、特別加入しなければ、労災保険の給付を受けることはできない労働者であったとされたわけです。

遺族側は、労災保険の労働者保護の制度趣旨をふまえて緩やかに適用すべきであること、特別加入手続きの要否を判断するのは事業主であって、落ち度のない労働者に不利益を課すことは相当ではないなどの主張も行いましたが、いずれも認められませんでした。なお、A’を上海に派遣した国内会社は、「長期の出張」として処理していたため特別加入の手続きを採らなかったようですが、このような事業主との勤務関係の処理は、判断の要素とはされませんでした。

このように、本判決では、「海外派遣者」である労働者について労災保険の保護は与えられないことを明確に示しました。そのため、会社としては、明確とはいえない判断基準のもとに、手続きの要否を判断しなければならないことになります。その判断にあたっては、記事ではあまり詳しく取り上げなかった具体的な事実や、それへの裁判所の当てはめなども参考になるでしょう。

本事件のように遺族補償給付が支給されないとなれば、遺族にとっても重大な事態を招くことになります。企業としては、事前に労基署や社会保険労務士・弁護士等と十分に相談するなどその判断には慎重さが求められます。

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