パワハラは労働基準法違反か?法律や判例の扱いは?

<パワハラとは?>

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、または、職場環境を悪化させる行為をいいます。これが厚生労働省による説明です。

これによると、「精神的・身体的苦痛を与えこと」あるいは「職場環境を悪化させる行為」という実害の発生が、パワハラ成立の条件のようにも見えます。しかし、企業としてはパワハラを未然に防止したいところです。

ですから、就業規則にパワハラの定義を定めるときは、「精神的・身体的苦痛を与えうる言動」「職場環境を悪化させうる言動」という表現が良いでしょう。

<パワハラと労働基準法>

労働問題の相談窓口といえば、最初に労働基準監督署が思いつくかもしれません。しかし、労働基準法にはパワハラについての規定が無く、労基署が企業を指導することはできないのです。ですから、被害者が労基署を頼ることはできません。

なぜなら労働基準法は、労働者を守るための基準を設定し、違反する使用者への罰則を定める法律です。そして、労働者に対しては何かを禁止したり罰則を適用したりということがありません。ところが、パワハラを行うのは労働者であることが多く、労基法はこれを規制できないのです。

<パワハラと刑事責任>

では、警察に相談したらどうでしょうか。

パワハラが犯罪行為であれば、刑罰の対象となります。

殴れば暴行罪ですし、ケガをさせれば傷害罪です。たとえ言葉の暴力でも、名誉棄損罪や侮辱罪あるいは脅迫罪にあたることがあります。また、義務の無いことを強制すれば強要罪です。

これらは、パワハラかどうかとは関係なく、犯罪に該当するかどうかという基準から、刑法が適用されるのです。

警察は、犯罪に該当する可能性があれば動いてくれます。

<パワハラと民事責任>

このように犯罪とされた場合でも、そうではなくても、被害者はパワハラの加害者側に対して民事上の責任を追及することができます。

具体的には損害賠償の請求です。ここでの損害には、治療費や欠勤による収入の減少など財産上の損害だけではなく、精神的な損害も含まれます。つまり、慰謝料の請求ができるわけです。

<加害者への損害賠償請求>

民法709条が「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。一般的な不法行為の規定です。

故意ではなくても、過失によってうっかり損害を加えた場合にも、加害者は損害賠償責任を負うのです。

パワハラの加害者への損害賠償請求が、裁判になった例は多数あります。

  • 身体的・精神的な攻撃についての例として、労働者に対して会社が課した就業規則の書き写し等の教育訓練が、裁量権を逸脱、濫用した違法なものであるとして、損害賠償請求が認められた事案〔JR東日本(本荘保線区)事件、最高裁二小平8.2.23判決〕
  • 人間関係からの切り離しについての例として、同僚社員によるいじめや嫌がらせが、その陰湿さ及び執拗さの程度において、常軌を逸した悪質なひどいいじめ、嫌がらせであるとされた事案〔富士通事件、大阪地裁平22.6.23判決〕
  • 過大な要求についての例として、精神疾患を有する市立中学の教員に対し、校長ら、教育委員会等がパワーハラスメントを行ったことが原因で精神疾患が増悪し、当該教職員が自殺したとして、県及び市に対し、遺族が損害賠償を求めた事案〔鹿児島地裁平成26年3月12日判決〕

<会社への損害賠償請求>

民法715条1項本文が「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。使用者責任の規定です。

ここで、「他人を使用する者」は会社です。「被用者」とはパワハラの加害者であり、「第三者」とは被害者です。

被害者は、加害者に対しても、会社に対しても損害賠償を請求できます。

判例では、会社が安全配慮義務を負うとされてきましたが、最近では、この範囲が拡張され職場環境配慮義務を負うという表現に変わってきています。

パワハラをした人だけではなく、会社の責任が認められた裁判事例としては、次のものがあります。

  • 業務の分担を巡るやりとりに起因した暴行は、業務の執行につきなされたものであり、加害社員と共に使用者も損害賠償責任を負うとされた事案〔アジア航測事件、大阪地裁平13.11.9判決〕
  • 塾講師が、有給休暇取得を申請したところ、上司が有給申請により評価が下がるなどと発言して有給休暇取得を妨害したこと、総務部長や会社代表者らが上司の行為を擁護した発言などが不法行為に当たるとして、上司、総務部長、会社代表者及び会社を相手取り、損害賠償を求めた事案〔日能研関西ほか事件、大阪高裁平成24年4月6日判決〕

<役員への損害賠償請求>

会社法429条1項は「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。

社内でパワハラが発生しても、これに対して有効な対策を行わなかった職務怠慢について、被害者から役員に責任を追及できるということです。

たとえ社長や取締役が直接パワハラに加担していなくても、被害防止に努めないことが職務怠慢とされ、損害賠償の請求対象となりうるのです。

  • パワハラと過重労働が原因で社員が自殺をした事件で、会社は労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法等に基づき社員に対する安全配慮義務を負っており、取締役は会社がこの安全配慮義務を遵守する体制を整えるべき注意義務を負っているとした事案〔サン・チャレンジほか事件、東京地裁平成26年11月4日判決〕

<裁判に見られる傾向>

パワハラによる被害が大きい場合、直接の加害者個人が賠償し切れないということがあります。

こうしたときには、個人よりも資力のある会社に対して損害賠償の請求が行われます。

今や、個人と会社の両方に、同時に損害賠償の請求をすることが当たり前になっています。

そして、会社が多額の賠償請求に耐えられない場合には、被害者が社長その他の取締役の責任を追及するということが増えてきました。

もはや、社長その他の取締役も個人としての責任を免れないということです。

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解決社労士 柳田 恵一
今のありのままの姿と理想とのギャップをどうやって埋めたら良いのか。「府中柳田」で検索してみてください。そして、お気軽にご連絡ください。

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