労働保険の年度更新で間違えやすいポイント

<『申告書の書き方』の配布>

労働保険料の納付義務がある事業主には、申告書などと一緒に『平成○○年度労働保険年度更新申告書の書き方』という冊子が郵送されます。紛失しても、最寄りの労働基準監督署でもらえますし、厚生労働省のホームページでダウンロードできます。表紙左上の「事業主の皆様へ」の下に(継続事業用)と(一括有期事業用)の区別が書いてありますので注意しましょう。建設の事業では(一括有期事業用)、その他の事業では(継続事業用)を参照します。

この冊子は、大変詳しく書かれています。ですから、これを読めばなんでもわかるハズなのですが、40ページ余りあるので、どこを見たらよいのか迷ってしまうこともあります。また、例外の例外や、条件がいくつも重なる場合など、特有のわかりにくさもあります。

以下、年度更新の概要と間違えやすいポイントについて説明します。

<労働保険の保険料>

雇用保険と労災保険の保険料は、あわせて労働保険の保険料として、毎年4月1日から翌年3月31日までの保険年度を単位として計算されます。

その額は、雇用保険と労災保険のそれぞれについて、対象となる従業員に支払われる賃金の総額に、その事業ごとに定められた保険料率を掛けて算定されます。

ただし、建設の事業で賃金総額を正確に算定することが困難な場合には、請負金額に労務比率を掛けて保険料を算定します。

<年度更新とは?>

労働保険では、翌年度の保険料を概算で納付し、年度末に賃金総額が確定してから精算するという方法がとられています。〔労働保険徴収法15条、17条〕

したがって事業主は、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付と、新年度の概算保険料を納付するための申告・納付の手続きを同時に行うことになります。これが「年度更新」の手続きです。

また、石綿健康被害救済法に基づく一般拠出金も、年度更新の際に労働保険料とあわせて申告・納付することとなっています。

<年度更新の時期>

この年度更新の手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間に行わなければなりません。7月10日が土日にあたるときは、繰り下げられます。〔労働保険徴収法19条〕

手続きが遅れると、政府に保険料の額を決定され、さらに追徴金10%を課されることもあります。〔労働保険徴収法21条、25条〕

<保険料の分割納付>

概算保険料額が40万円以上の場合、原則として労働保険料の納付を3回に分割することができます。第2期、第3期が延納となるわけです。

労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみが成立している場合には、20万円以上であれば分割納付できます。

継続事業であれば、申告書の上のほうの「※各種区分」の中の「保険関係等」の欄に111と印字されていれば40万円以上、その他の数字が印字されていれば20万円以上が基準です。

また、労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合は、概算保険料額に関係なく分割納付が可能です。

<口座振替納付とそれ以外の納付日>

窓口納付と電子申請での納付は、第1期の納期限が7月10日ですが、口座振替の場合には約2か月遅れでの納付となります。納付方法を変更する場合には、間違えやすいポイントとなります。

<労働保険対象者の範囲>

最も間違えやすいのがここです。

労災保険の対象者については次の点に注意しましょう。

  • 正社員、嘱託、契約社員、パート、アルバイト、日雇い、派遣など、名称や雇用形態にかかわらず、賃金を受けるすべての人が対象となります。
  • 代表権・業務執行権のある役員は対象外です。
  • 事業主と同居している親族でも就労の実態が他の労働者と同じなら対象となります。就業規則が普通に適用されているなら対象となります。

雇用保険の対象者については次の点に注意しましょう。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば原則として対象者です。雇い入れ通知書、労働条件通知書、雇用契約書などが基準となります。これらの書類が1つも無いのは、それ自体が労働基準法違反ですから注意しましょう。
  • 昼間に通学する学生、65歳以上で新たに雇われた人などは対象外です。
  • 複数の会社などで同時には雇用保険に入れません。主な賃金を受けているところで対象者となります。

両方の保険に共通の注意点としては、次のものがあります。

  • 代表権も業務執行権も無く、役員報酬と賃金の両方を受け取っている役員は、賃金についてのみ計算対象となります。
  • 派遣社員は派遣元で保険に入ります。派遣先での手続きはありません。
  • 出向社員は賃金を支払っている会社などで雇用保険に入り、実際に勤務している会社などで労災保険に入って、そこでの料率が適用されます。出向先の会社は、年度更新のために出向元から賃金などのデータをもらう必要があります。

<労働保険対象賃金の範囲>

次いで間違えやすいのがここです。

含まれるものとして特に注意が必要なのは次のものです。

  • 保険料算定期間中に支払いが確定した賃金は、この期間中に支払われなくても算入されます。申告書を提出する年の3月31日までに締日があれば算入です。
  • 事業主の落ち度で休業する場合に支払う休業手当。これは、労働基準法26条で支払いが義務づけられています。
  • 定期的に支給される前払いの退職金。これは、支給基準・支給額が明確に定められている場合に対象となります。

含まれないものとして特に注意が必要なのは次のものです。

  • 臨時的に支払われるものは含まれません。結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、年功慰労金、勤続褒賞金、退職金などは含まれません。
  • 労災による休業補償費。これは、労働基準法76条に基づくものですが、法定の60%を超えて支払った場合でも全額が含まれません。

<免除対象高年齢労働者>

保険年度初日の4月1日の時点で、満64歳以上の人は会社の分も含めて雇用保険料が免除となります。

しかし、満64歳以上の被保険者を含めた全体の賃金総額と、満64歳以上の被保険者だけの賃金総額の両方が必要となります。

<一括有期事業の対象>

建設の事業で一括有期事業となるのは、原則として、次の条件をすべて満たす場合です。その他の場合には、1現場ごとに一つの事業として、その事業が開始されるごとに単独有期事業として労災保険加入の手続きをします。

  • 元請負であること。
  • 請負金額が1つの工事で1億9千万円未満かつ概算保険料額が160万円未満。
  • 保険年度内に終了した工事。つまり、申告書を提出する年の3月31日までに終了した工事。
  • 事務所の所在地を管轄する都道府県労働局の管轄区域、または隣接する都道府県労働局の管轄区域で行う工事。

<その他のポイント>

現在、労働者がいない場合や納付が困難な場合でも申告書の提出は必要です。

領収済通知書(納付書)に記入する内訳と納付額の金額の訂正はできません。訂正印をおしてもダメです。反対に、その他の部分は訂正できますし、訂正印は不要です。

申告書が郵送されてきてからバタバタしないため、人数の少ない会社でも、最後の1か月の賃金を入力すれば自動計算できるように、表計算ソフトで準備しておくことをお勧めします。

出向社員の賃金データが遅れて届くと、いつまでも計算が完了しませんので、予定を確認する形で催促しておきましょう。

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解決社労士 柳田 恵一
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