「飲み会から残業のため会社に戻るときの事故死は労災」最高裁判決のポイントは?

<タイトルだけを見ると>

この最高裁第二小法廷の判決は、平成28年(2016年)7月8日に出されていますので、既に多くのメディアで取り上げられています。

多くの記事はそのタイトルが「へぇー!飲み会の後でも残業で会社に戻る途中なら労災かぁ!」と思わせるものです。

しかし、話はそんなに単純ではありません。

<判例の射程距離>

最高裁の判例については、その射程距離が問題とされます。

裁判所はAという事実を認定し、それに法令を適用してBという結論を導きます。そして、このAと全く同じ事実が、もう一度発生することはありません。

そのため判例を、Aとよく似たA′という事実にもあてはめてBという結論を出してもよいのか、そこそこ似たA″という事実ならどうかということが問題となるのです。

これが判例の射程距離の問題です。

この事件では、地方裁判所と高等裁判所が、過去の判例をあてはめて労災保険の適用を否定しました。これに対して最高裁は、事情の違いを重視して労災保険の適用を認めたのです。

<この事件の特殊性>

社員同士の親睦を図る目的で自主参加の飲み会に参加し、会社に車で戻る途中に事故死した場合、常識的に考えて、労災保険の補償があるとは考えにくいものです。

今回の事案は、こうした常識を覆す特別な事情が数多く存在しました。その主なものは次のとおりです。すべて客観的な事実です。

・被災者は、社長業務を代行する上司から、歓送迎会への参加を要請されたが、社長に提出する資料の締切が翌日なのでこれを断った。しかし上司は「歓送迎会のあと自分も手伝うから会社に戻ってやろう」と言い、改めて被災者に歓送迎会への参加を要請した。このとき、既に被災者を除く全員が参加を予定していた。

・被災者は会社で締切の迫った仕事をしていたが、これを中断し歓送迎会の会場に会社の車で向かった。そして、到着したのは終了予定時刻の30分前であり、被災者はアルコール飲料を全く飲まなかった。

・歓送迎会の飲食代金は、会社の福利厚生費から支払われた。

・歓送迎会に参加した研修生を、上司がアパートまで会社の車で送っていく予定だったが、被災者が会社に戻るついでに、上司に代わって送っていく途中で事故にあい死亡した。

<労基署と最高裁の判断の違い>

労災保険法に基づく遺族への補償について、車の運転が会社の支配下にある行為といえるかどうかが争点となりました。

行政機関である労働基準監督署長は、数多くの事案を平等かつ公平に扱うため、画一的で一般的な基準をもとに判断します。そして、今回の車の運転は会社の支配下で行われていないと判断しました。

下級審である地方裁判所と高等裁判所も、従業員有志で開催された私的な会合であったこと、途中参加であったこと、研修生をアパートに送ったのは被災者が任意に行ったことだという事実を認定して、やはり今回の車の運転は会社の支配下で行われていないと判断しました。

もともと裁判所は、個別具体的な事情を十分に考慮し、解決の具体的な妥当性を重視するのですが、下級審ではその機能が十分に発揮されなかったようです。

最高裁ともなると、こうした裁判所の機能に加え、人権擁護の最後の砦(とりで)となる機能を担っています。そこで、より細かく具体的な事情を分析的に認定して、車の運転が会社の支配下にある行為であり、労災保険の適用があると判断したのです。

<どうしたら事故を防げたか>

社長代行の上司から「手伝うから一緒にやろう」と言われたら、断ることはできません。しかし、飲み会帰りの上司に手伝ってもらって、はかどるとも思えません。

被災者は歓送迎会までに何とか仕事を終わらせようと思ったことでしょう。どうしても終わらなくて、仕方なく歓送迎会に遅れて駆けつけたのです。

もし上司から社長に事情を説明して、仕事の締切を先に延ばしてあげたなら、この被災者は落ち着いて行動できたことでしょう。

上司が部下に対して、仕事を手伝うというのは、それはそれで思いやりのあることです。しかし、部下の気持を考えたら、社長と相談して欲しかったと思います。

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解決社労士 柳田 恵一
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