会社のマタハラ対策が義務化です!

今回は「マタハラ対策」に関する法律改正、および政府の指針について少し書いてみます。

「雇用保険等の一部を改正する法律(育児・介護休業法、男女雇用機会均等法、雇用保険法等の改正)」が、
平成28年3月29日に参議院本会議で可決され、3月31日に公布されました。

これを受けて、平成29年1月1日から、改正された「育児介護休業法」や「男女雇用機会均等法(以下、均等法)」などが施行されます。

これら改正法の目的は、

「妊娠・出産・育児期や家族の介護が必要な時期に、男女ともに離職することなく働き続けることができるよう、仕事と家庭が両立できる社会の実現を目指し、雇用環境を整備する」ことで、

「仕事と介護の両立支援」「仕事と育児の両立支援」「’妊娠・出産・育児・介護’をしながら継続就業できる就業環境の整備」のための改正がされています。

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改正された事項はいろいろありますが、要点をまとめると、

1)介護離職を防止することと、仕事と介護の両立を可能とする制度の整備するために、

> 介護休業(93日)を3回を上限として分割取得できること

> 介護休暇(介護休業ではない)を半日単位の取得ができること

> 介護休業とは別に、所定労働時間の短縮措置等を3年間で2回以上の利用が可能なこと

> 介護終了までの期間、所定外労働の免除請求できること

> 有期契約労働者の介護休業取得要件を緩和すること

などが現行法と変わります。

2)多様な家族形態・雇用形態に対応した育児期の両立支援制度の整備として、

> 子の看護休暇(年5日、子が2人以上10日)を半日単位の取得ができること

> 有期契約労働者の育児休業の取得要件を緩和すること

> 法律上の親子関係に準じる関係(特別養子縁組等)の子についても「育児休業等の対象」として追加すること

などが変わります。さらに、

3)妊娠・出産・育児休業・介護休業をしながら継続就業しようとする男女労働者の就業環境の整備として、

> 妊娠・出産・育児休業・介護休業等を「理由」とする、上司・同僚などによる就業環境を害する行為を防止するために、雇用管理上必要な措置をとることが事業主に義務化されること

と改正されることになります。

現行法でも、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を「理由」とする「不利益取扱い(解雇、雇止め等)」は禁止されていますが、

さらに、このようなことが起こらないようにするための「防止措置の義務」が新たに追加されることになります。

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「マタニティーハラスメント」対策の義務化と最高裁判決

今回の改正で特筆すべきことのひとつとして、妊娠や出産を理由に職場で不当な扱いや嫌がらせをする「マタニティーハラスメント(以下、マタハラ)」の対策が義務化されたことだと思います。

政府が、このように企業にマタハラ対策を義務付ける法改正に踏み出した背景にひとつに、最高裁のひとつの判決がありました。

平成26年10月23日の最高裁の判決で、妊娠中の女性労働者が軽易な業務への転換を契機として降格されたことは、均等法の「妊娠や出産を理由にした、解雇その他不利益な取り扱い」に当たり、原則違法としました。

その概要は、

ある病院の訪問介護施設の副主任(管理職手当あり)である理学療法士の女性労働者が、第2子を妊娠し、労働基準法65条に基づいて軽易な業務への転換を要求しました。そして病院は軽易な業務として病院リハビリ科に異動させた後、副主任を免ずる旨の辞令を出しました。

その後、女性労働者は産前産後の休業をし、育児休業を終えて約1年後に職場復帰しましたが、既に後輩の副主任がおり、今後も副主任に任じられないことを知らされました。

女性労働者はこれを不服として強く抗議し、その後、この訴訟を提起したそうです。

この最高裁の判決の結果、女性労働者が敗訴とされた1、2審の判決を破棄し、高裁に差し戻し、女性が勝訴しました。

妊娠をめぐる降格処分について、最高裁が均等法違反と判断したのは初めてのことだそうです。

ですから、今回の法改正に大きな影響を与えていると思います。

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「妊娠等を理由とする不利益取扱い(いわゆるマタハラ)に関する調査結果」

ところで、平成27年11月12日の労働政策審議会雇用均等分科会でも

「妊娠等を理由とする不利益取扱い(いわゆるマタハラ)に関する調査結果」が報告されました。

6500社で雇用される25~44歳の女性労働者約26,000人、およびウェブモニターに登録している25~44歳の女性労働者2,500人と25~44歳の雇用経験のある女性2,500人に対して、平成27年9月14日~10月4日までの調査結果です。

その調査によると、

> 職場でマタハラを受けた女性労働者の45.9%が「妊娠・出産」自体が原因だと考えています。

> 職場でマタハラを受けた女性労働者の54.4%が「健康だった(不調はなかった)」と思っています。

> 職場でマタハラを受けた女性労働者の19.1%が「直属の上司(男性)」がその行為をした者とし、15.2%が「直属よりも上位の上司(男性)」を行為者としています。
また11.1%の女性労働者が「直属の上司(女性)」、9.5%が「職場の同僚、部下(女性)」を行為者と考えています。

> 「不利益取扱い」の内容としては「解雇」「雇い止め」がそれぞれ約2割で、また約半数が「’迷惑’’辞めたら’等、権利を取得しづらくする発言」を受けたとしています。

> 「正社員」より「派遣社員」のほうがマタハラを受けています。

> 「就業規則等」に明文化された育児休業制度の規定がある事業所の方が、女性労働者がマタハラを受ける確率が低くなっています。

> 「マタハラ防止策に取り組んでいる」事業所の方が「いずれも取り組んでいない事業所」より、女性労働者がマタハラを受ける確率が低くなっています。

> 「マタハラ防止策に取り組んでいる」事業所の方が「いずれも取り組んでいない事業所」より、就業を継続する女性労働者の割合が多くなっています。

この調査結果から、

実際に職場でマタハラの問題が相当の割合で発生しており、会社が対策をとれば減らすことができることが調査結果から想定できます。

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マタハラに関して雇用管理上講ずべき措置についての「指針」

改正均等法の規定に基づいて、平成28年8月2日、マタハラに関して雇用管理上講ずべき措置についての「指針」が告示されました。(厚生労働省告示第三百十二号)

これは、マタハラを防ぐため、企業が実施すべき具体策を示した政府の「指針」で、平成29年1月1日の法律施行に合わせて運用が始まることになります。

この指針では、事業主が職場のマタハラに関して雇用管理上講ずべき措置として、

1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

> マタハラがあってはならない旨の方針、妊娠、出産等に関する制度の利用ができる旨の説明等を明確にして、管理、監督者を含む労働者に周知・啓発すること

>マタハラの行為者に、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を「就業規則等の文書」に規定し、管理、監督者を含む労働者に周知・啓発すること

2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

> 相談窓口を定め、窓口担当者をおき、マタハラが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や微妙な場合であっても広く相談に対応すること

> マタハラ、セクハラ、パワハラ等の相談窓口として一元的に受け付ける体制の整備が望ましいこと

3)マタハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応

> 事実関係を迅速かつ正確に確認し、速やかに被害者に対する配慮の措置を行い、行為者に対する措置も適正に行うこと

> 再発防止に向けた措置を講ずること

4)マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置

> 制度等の利用を受ける女性労働者においても、制度等の利用ができるという知識を持つだけでなく、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら、自身の制度の利用状況等に応じて、適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等を周知・啓発することが望ましい

5)その他併せて講ずべき措置

> 相談者・行為者のプライバシーを保護する措置を講じ、周知すること

> 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を「理由」として不利益な取扱いをしてはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

などが、具体的に挙げられています。

マタハラの防止は「上司」だけでなく「同僚」も対象

さらに、マタハラの対象ととなるような言動も例示され、また、その行為者も「上司」だけでなく「同僚」も対象になります。

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これらの改正法や指針については、大企業だけでなく、すべての企業が遵守することが求められます。

特に中小企業にとっては、

マタハラ対策方針の策定、体制整備、就業規則・服務規程の作成、窓口の設置、社内法、パンフレット等での周知・啓発活動、および研修・講習会の実施等、かなり重い業務になりそうな気がします。

既に先行しているセクハラやパワハラ対策だけでなく、

マタハラについても職場から無くなり、

すべての労働者が長期にわたって十分に活躍できる労働環境ができるまで、どの会社にとっても大きなエネルギーが必要なのかもしれません。

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坂部 雅人

坂部 雅人

代表 社会保険労務士さかべ社会保険労務士事務所
1959年、埼玉県生まれ 北海道大学で、細菌の酵素について研究した理系人間です。 日本たばこ産業株式会社(JT)で、研究職、管理職を長く経験した後、 社会保険労務士になった「へんてこ社労士」です。 「人」と「人」の問題を解決するには、それぞれのお話にしっかり耳を傾けることが、まず第一歩だと考えています。

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