前略、あっせん代理の現場から①「パワハラをめぐる労働紛争の実際」

私は、使用者側の業務として就業規則・賃金規程作成や人事制度策定を手掛ける一方、労働者側の労働相談やあっせん代理(個別労働紛争の裁判外紛争解決手続)業務を数多くお引き受けしています。

後者で、労働相談からあっせん代理へと発展するケースの内、ここのところ急増しているのは、何といってもパワハラ絡みの労働紛争です。

但し、実際にはパワハラそのものが争われるというケースは意外な程に少なく、むしろパワハラが起点になって、退職強要、不当な降格や労働条件の引き下げ、解雇などが生じ、それが争われるというケースの方が多いかと思います。

何故かと言いますと、執拗かつ明確なパワハラによってメンタル不調をきたし、裏付ける医師の診断書もあって、相談者が弊所にご来所頂く際は既に休職状態という場合でも、パワハラを立証する客観的な証拠がないケースがとても多いからです。

われわれ特定社会保険労務士が代理人となるあっせんでは、あっせん委員は事細かな事実認定を行いません。現実にあっせん委員からもあっせんの冒頭でそう言われることが多く、ある意味あっせんでは心証形成が勝負という様なところがあります。ですから客観的な証拠がなくても、労働者本人からの聴き取りが信ずるに足るものであれば、それを基に理路整然と、パワハラによるメンタル不調⇒安全配慮義務違反・不法行為で、損害賠償請求を行います。

しかし、司法の場では厳密な事実認定を行いますから、それらの主張がなかなか認められないことは相手方のあっせん代理人(特定社会保険労務士でなく弁護士の場合もある)もよくわかっています。ですから結局、パワハラそのものについて掘り下げたところで水掛け論になるだけです。そのため既述の様に、パワハラによるメンタル不調から派生した退職強要、不当な降格、労働条件の引き下げ、不当な解雇などについての金銭解決に争点は移っていきます。結果、パワハラはそれらの争点についての心証形成の導火線として使うということが多くなるわけです。

ここから見えてくることは何でしょうか?

労働者側については、あくまでパワハラそのものについても損害賠償を得たいと考えるのであれば、使用者側からのパワハラメールは必ずプリントアウトして整理し、口頭でのパワハラはICレコーダーやスマホの録音アプリを使って丁寧に録音しておくことです。これらがあれば、あっせんの場であれ、司法の場であれ、使用者に非を認めさせ、パワハラそのものについても慰謝料ほか損害賠償を得ることができるでしょう。また同時に行政おいては、パワハラによるメンタル不調で通院したり、就労できないのであれば、労災認定されて給付を受けることも、高い確率で可能になります。

使用者側では、なまじ法律を知っている管理部門の人間などに多いのですが、「パワハラそのものについては、客観証拠で労働者側が立証しない限り、損害賠償するには至らない」と高を括っている人が居て、こういう人が会社をリスクにさらしてしまいます。

私の経験上も、数は少ないとはいえ、数回にわたって行われた数時間の上司からの叱責をきっちり録音して持ち込んだ労働者がおられました。叱責の全てがパワハラに当たるものではありませんでしたが、その何割かは言い逃れでできない様なパワハラ発言でした。その気になれば今やICレコーダーやスマホで録音するくらい容易いことなのです。

法に通じている管理者や経営者こそ、パワハラ防止の体制づくり、研修等による啓蒙を通じて、パワハラ予防を率先垂範して頂きたいと思います。現代の企業防衛の重要な一手だと考えます。

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尾鼻 則史
大阪・梅田で労働紛争解決(労働者側・使用者側)、労務リスクマネジメント・就業規則作成および改定・採用支援・人事制度策定および改定(使用者側)、労働相談・就活相談(労働者側)を中心に活動する特定社会保険労務士。リクルートグループ出身、ベンチャー・第二創業などの株式公開(IPO)準備企業の管理部門責任者を歴任した豊富な経験を基に、トラブルのない成長力ある組織づくり、働く者が幸せになる職場づくりをミッションとしている。

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